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楠田稔「浜野晋介捕物控」を刊行しました

楠田稔氏の「浜野晋介捕物控」を刊行しました。2月20日発売です。

https://www.amazon.co.jp/dp/4909692770/

この作品は、幕末期の横浜開港場を舞台とした捕物小説で、地元紙の「神奈川新聞」に2年余り断続的に連載されたものです。ただし、著者の楠田稔氏は生没年なども不明で著作権継承者も分りませんでした。

そこで、この本は文化庁の裁定制度を利用して、印税相当額を法務局に供託して刊行したものです。

ところで、著作権者が不明で著作物使用料の支払先がわからない場合の対処方法として、文化庁では「裁定制度」を用意しています。供託すべき金額を金額を裁定し、供託金の支払いを確認したうえで出版を認めるという制度です。

ところが、著作権法で定められている裁定制度によらず、言い換えれば、著作権上に定められた正規の手続きを無視して出版されている本は、驚くほど多いのが実態です。

よく、昔の短編を集めたアンソロジーなどに「著作権継承者の方。ご消息を御存知の方は、編集部までご連絡願います」といった文章が巻末に載っている場合があります。これは「連絡いただければ著作権料を支払う意思がある」という意味の文章ですが、逆に言えば、連絡が無ければ誰にも著作権料を支払っていないということです。

この方法は著作権上の規定に準じたものではありません。著作権法では、裁定された著作権料を供託、つまり先に払ったあとで、刊行を認めるのであって、不払い、後払いを認めていないわけです。正規の裁定制度を経た本であれば「著作権法第67条の2第1項の規定の適用を受けて作成された複製物です。(平成x年x月x日裁定申請)というような文を記載することが義務付けられています。そのつもりでご覧になると、いかに裁定制度を経ずに刊行されている本が多いかということがお分かりになると思います。

ただし、私は、中小の出版社が、アンソロジーや雑誌の復刻版を出す場合に、裁定制度は必須だとも申しませんし、著作権法を無視した脱法行為として非難するという立場でもありません。賛同も奨励もしませんが非難はしません。

裁定の手続きはかなり煩瑣であったため(近年はだいぶ簡素化されましたが)なかなか利用できないという面がありました。その背景もあって「著作権者を探しています」という文面だけで出版を強行する本が増えて、いつの間にか広く出版業界に定着してしまったのです。ですから中小の出版社に対してとやかく物申すつもりはありません。

ところが、大手でもK社やT書店のように無視している例があります。私の様な個人事業でも裁定手続きができるのですから、社員の大勢いる大手出版社なら、その作業ができない筈がありません。

大手では中央公論社がきちんと裁定制度を利用していることが判りますが、著作権の権利者探しの広告や裁定実績を見ても、中央公論社以外の大手出版社をほとんど見かけないのが実態です。(もちろん、著作権者不明の物には一切手を出していないという所も多いでしょう。)

では、なぜ捕物出版では、このような業界慣行にもかかわらず、裁定制度を守るのかということですが、吹けば飛ぶような個人事業で、社会的信用もないわけですから、「後払い」の記述は空手形にもなりかねないという不信感を抱かれても仕方がなく、さらには「好き勝手なことをやっている」と指弾されるかもしれません。ですから、私自身は後ろ指をさされないよう、裁定制度を遵守します。

ただし、少なくとも社員が何百人もいる様な大手出版社が脱法行為を続けているのには憤りを感じていますが、中小出版社にまで、その負担を強いようとまでは思っていません。

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