捕物出版blog

捕物出版のブログです。

段組み、ヘッダー、フッター、余白の設定など、wordの使い方には習熟してきたものの、やはり、個々のケースで悩むことはしばしばあります。
写真は納言恭平さんの七之助捕物帖のある一節です。
右端の行の、「まいらるべくそうろう」、返り点があってルビ付き・・。底本を見て、凍りつきました。
解決には2日かかりましたが、結局解決策はなく、ルビは他の文字に振ったのをPDF上で修正しました。(返り点はwordで作れます)

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TrueTypeフォント作成ソフトで文字を作成

いつも使い慣れているwordですが、縦書き、ルビつきの作品ですと、これは厳しい。

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だまってルビをつければ行間が滅茶苦茶になります。これは、行間を固定値にすれば防げますが・・・。
また一つの漢字に2文字までならルビはすんなりおさまるのですが、3文字以上のルビになると、そのまま振ると文字の間隔が不揃いになります。これは前後の文字を含んで3文字セットにして、ルビの位置を「中央揃え」にするという処理をして実現しました。
デフォルトのルビは文字から離れすぎているので、これも修正します。ところが、ルビは文字との間隔が調整できても、傍点は調整ができません。
もう一つ、面倒なのはダッシュ、3点リーダの2個連続。これが縦書きにするとフォントによってはつながらない。
また、文字数によっては連続せずに行末と次の行の行頭にわかれてしまう。
下手に禁則処理すると、前の行の文字数が極端に減ってスカスカになってしまう・・・
こうしたことが深刻な問題になってきました。普通は、wordで入力された文章をレイアウト屋さんがインデザインで一つずつ直していくのだそうです。
でも・・・
例文は若さま侍のある作品の一節です。「おいと」というのは若さまが逗留している船宿の娘で、レギューラーの登場人物なんですが、底本によっては「おいと」すべてに傍点が振ってある。1ページに傍点20個とかいう場合もあるのです。これを一個一個手作業で修正するなんて・・・とても無理です。
3点リーダの連続も信じられないくらい頻出します。
外字登録も考えましたが、wordの外字は品位が悪く、プリントオンデマンドの規格に合致しません。

2、3週間試行錯誤を重ねて、ようやくたどり着いたのは、TrueTypeフォントを作成するソフトを購入して、フォントを自作することでした。
例にあげた一節の傍点と3点リーダ2個並びは、自作したフォントで、傍点は、wordの持つ本来の処理ではなくルビで振ってあるのです。3点リーダは6点分のフォントを作り、それを縦倍角にしています。こうすれば分離してしまうことは避けられるからです。

見本誌の作成を思い立つ

屋号も決まり、出版社開業の前段階が一通り終わって、いよいよ本作りに着手しました。まずは見本誌を作ってみようと思い立ったのです。
というのは、プリントオンデマンドで出版されている本の大半は実用書で、小説の本はほとんどありません。いったいどんな仕上がりのものができるかということが、実感がわかなかったからです。

小説の本文を入力し始めて、wordとの悪戦苦闘が始まったのでした。

屋号を決める

次に調べたのは、ISBNコードの取得でした。ISBNコードの発行管理は日本図書コード管理センターというところです。
電話で問い合わせてみたところ、個人事業の出版社でも、申請は可能だとのこと。
「個人名よりも屋号とかを登録していただく方が良いですよ。ただし郵便物は屋号で届くように標札にシールでも貼っておいてくださいね」などと懇切丁寧な助言を頂きました。
そこで100冊分の申請をしたのですが、そこでちょっとしたハプニングがありました。
私が留守にしている間に自宅に日本図書コード管理センターから電話がかかってきて、「捕物出版ですか?」と言われたそうです。まだ家内には何も話していなかったものですから、「違います」と言ったとのこと。すぐさま今度は私の携帯に電話がかかってきて、「奥さん知らないって言ってますよ。ちゃんと徹底してくださいね」と言われました。(用件は本当に100冊分もコードが必要なのか?という確認でした)
帰宅した後、当然、そのことが話題になりました。日頃さかんに古本を買い集めていましたから、出版関係のことを何か考えているんだなとは思っていたそうですが、捕物小説専門の出版社、しかも屋号は「捕物出版」。「なんてダサイ名前なの」と家内は呆れていましたが、まあまあ、事後承諾は得られたのです。
ほかにいくらでも名前は考えられるのに、なぜもっと汎用的な名前にしなかったのか?ということですが・・・
私もそれは迷いました。
ただ昔の雑誌を見ていると、「小説の日本」という雑誌の社名は「小説の日本社」などと誌名そのまんまというところが多いのです。
それと、捕物小説に特化した出版社を目指して起業したのですから、あちこち浮気しないように、自ら退路を断つつもりで「捕物出版」と名付けたのです。

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出版社起業を考える

出版社を起業しようとして、まずは、出版業界のことを勉強し始めました。しかし、ある程度想像はしていたことですが、非常に厳しい。儲けるために始めるのではないといえ、家内からは「赤字はだめだよ」と念を押されて・・。
出版社の人たちは取次をボロクソにけなすし、新興の出版社なんて実際に取り次いでもくれない。第一、採算がまったく合いません。
いろいろ調べていて行き着いたのがプリントオンデマンド(POD)でした。これでも条件は非常に厳しいのですが、いくつかの会社を探していて、経済条件とかで、これなら何とかなるかな?というところが見つかりました。

次に、調べたのが著作権処理でした。すべてではないのですが、物故作家の多くは著作権事務を日本文藝家協会に委託しています。
なので、日本文藝家協会に電話しました。すると個人事業の出版社であっても、きちんとルールができていましたし、プリントオンデマンドの著作物使用料も(おそらく電子書籍に準じた物でしょうが)ルールができていました。
企画書を作って、申請書を作って・・・とズブの素人の私に対しても、懇切丁寧に教えていただきました。
ここで邪慳されていたら、とても起業は出来なかったでしょう。

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消えた直木賞

昭和の頃には、捕物帳はテレビドラマも多数つくられ、文庫化も進んでさかんに版を重ねていたのですが、しだいに状況が変化してきました。

本ばなれが進みだして出版業界を取り巻く環境が厳しくなると、文庫本はどんどん絶版となるように変化しました。

もう10年くらい前に読んだ本ですが、「消えた直木賞 男たちの足音編」(メディアファクトリー)という本があります。ここには有明夏夫氏の「耳なし源蔵召捕記事 鯛を捜せ」が収録されています。直木賞受賞作「大浪花諸人往来」(角川書店)の1編です。「消えた直木賞」という本に収録されるくらい、有明夏夫氏の浪花の源蔵シリーズの本は絶版になっていました。

この本は「直木賞のすべて」を主宰されている川口則弘さんが編者ですが、「受賞作の『大浪花諸人往来』だけじゃない。他の著作ももはや書店でお目にかかることが難しくなってしまった。これは本当にさみしいことだ。埋もれさせちゃいかんよ。」と書いておられます。この「埋もれさせちゃいかんよ」という言葉はずっと記憶に残っていました。

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